それは、まるで祈りのように、優しく降りかかる呪い。

いきて いきて、この世界を

どうか、いきて。


わたしのいないせかいを。









その壊れたみどりに、世界はどのように写っているのだろうと、思った。


『展開状況は?』
「配置完了確認。何時でも行けるわ」
『ならC地点から順次進軍開始。ランスロットとカレンは敵の散開後、本部を叩く。』
「……了解。」
声はひたすらに淡々と。何の感情も交える事無く、冷静に作戦を展開する。
それは『彼』と同じであったけれど、カレンを『Q-1』と呼ぶ存在は、もう、何処にも居ないのだ。

それがぽっかりと空いた穴の様に、ひどく、さびしい。

『カレン?』
「…あなたと、ゼロの作戦の立て方はとても良く似てるのね」
『……っ』
通信越しの、声が詰まった。枢木スザクは『彼』に関する事になら、まだ少しは反応がある。『彼』に関すること以外には無い、と言った方が正しいのかもしれない。
スザクにとってはゼロではなくルルーシュかもしれないが、少なくともカレンにとって『彼』の印象はゼロの方が強い。
カレンは、ゼロが好きだったから。
ルルーシュも特別ではあったけれど、ルルーシュ・ランペルージが死亡したと知らされた時、悲しみの他にも、彼はやはりゼロではなかったのか、という軽い失望があった。
ゼロのあの、冷酷なまでの知謀でもって自分達を導いてくれる所に、惹かれた。時折示される正義感や、分かり難い優しさが好きだった。
カレンはゼロが好きだったが、本当はずっと彼が恐かった。
きっと、騎士団の人間は皆そうだ。
いつか自分達は彼に棄てられるのではないのか、利用するだけの捨て駒にされるのではないか。彼にとって自分に、自分達に価値があるのか不安で、恐ろしかった。必死だった。例えどんな不可能な命令でも、必死で成功させた。日本の為に。ゼロの、為に。
その感情は、恋よりも、手の届かないものに対する憧憬に似ていた。

だから彼が、最後まで自分達を棄てなかった事が、とても、とても嬉しかった。うれしくて、うれしくて――かなしかった。
最後は、ほんとうの「最期」だったから。
『彼』はカレン達を棄てなかったけれど、自分自身を、捨てたから。
あっさりと。2度も。ブリタニアを倒すその為だけに。
ゼロに死んで欲しくなかったから、状況を理解しながらも投降した自分達の目の前で、ゼロを撃った枢木スザクを、だからカレンは赦すつもりは無い。一生。何が、あっても。

赦すつもりは無いが、ほんとうは同じ位、哀れに思っている。皆も。ゼロの仇である彼を。だから、従っていられる。それこそ、ゼロの思惑通りに。

スザクは「撃たされた」のだから。『彼』に。

『彼』が、ルルーシュ・ランペルージを殺したのはゼロとして行動する事を最優先させた結果だと、カレンも知っている。学生とテロリストの2重生活は、今現在の刻一刻と激変する状況には無理が出来てしまった。
…けれど、本当はスザクにゼロを殺させたかったから、かもしれない。半ばカレンは確信を持っている。
ルルーシュを殺して、スザクを追い詰めて、ゼロを殺させた。そしてブリタニアを壊す勢力を、造り出した。
ゼロが生きたままだったら、きっとダメだった。
ゼロが生きていたら、スザクは彼の言葉に従わなかった。自分達も、スザクが目の前で壊れかけなければ、従わなかった。
ゼロの存在は、強すぎたのだ。良くも悪くも。それが判っていたから、『彼』はゼロも殺した。
最初から最後まで、彼の掌の上で踊っているだけだ。誰も彼も。

『…チェスの仕方は、ルルーシュから教わったから、ね。』
声は、柔らかい。けれど少しも安堵は起こらない。咽喉下をナイフの切っ先で撫でられているような、やわらかさ。
「あなたは、ゼロの特別だった。」
嫉妬が、言葉に含まれている。
「あなたは――ランスロットは、ルールブレイカーだと、ゼロは言ってた。たった一機であらゆる戦局を変える事が出来る機体。暴力的なまでに、圧倒的に。全ての駒の動きを無視して、ゲームを盤ごと引っ繰り返すような、ルールブレイカー。」
『ひどいな。』
「だから、キングが居なくなったのにゲームは続いている。……あなたに、最初から全部明け渡すつもりだったのね。」
『…………』
幾度と無く、自分達を阻んできた機体だというのに、ランスロットの事を語るゼロの声は優しかった。それはきっと、誰が乗っているのかを知って、いたから。

どんな、気持ちだったのだろう。
周り全てを騙して、敵だと知っている親友の傍で笑っていたルルーシュは。
死んだはずの親友が、自分の撃ったテロリストだったスザクは。
その親友に、自分を撃たせたゼロは。
――どんな気持ちで、痛みの中、微笑んでいたのだろう。

「私は彼の特別になりたかったけど、少しも力になれなかったのね。」
ずっと一緒に戦ってきたのに、彼は少しも気持ちを零してくれなかった。
(あぁ、これでは愚痴でしかない。)
もう、通信を切ろうと、手を伸ばした。涙はもはや出る事は無かったが、声が、震えた。
『Q-1の、』
「え?」
『Q-1の意味を、聞いた事は?』
「…手駒の一つでしかないって。」
冷笑付きだった。あの時は本当に傷ついた。
『そう。一番強く、一番重要なたった一つの駒。――クイーンだ。』
堪え切れず、通信を切った。
絶対に泣いたりしない。――戦いが始まるのだから。盤上の誰よりも上手に踊らなければならないのだから。

カレンは、『彼』の駒なのだから。








よぶこえは、いつだってかなしみに変わる事を、しっている。
だって、あなたはこんなにも、さびしい。

「…昔、」
「うん?」
「吸血鬼の話を読んだことがある。」
「吸血鬼。」
「永遠を生きるバンパネラと一人の少年の話だ。」
「ありがちだな。」
「文章がのつくりが面白かった。」
「オチが読めたぞ。子供が吸血鬼を殺したら、それが友人だった。それで狂った。
どうだ?」
「永遠の友情を誓い合って終わる。」
「………」
「性格の悪さが滲み出ているな」
「うるさい。 で?」
「『で』?」
「オチは?」
「……」
「夢の中で生きる男にわざわざ現実を教える事も無いだろうに。」
「悪夢だ。」
「幸せな夢さ。只ひたすらに一人の人間の事を想い、考え、愛し、現実の全てを拒否している。」
「俺の読み違いか」
「いいや。私の方が間違っていた。
お前は正しかった。あの男は強い。自己防衛の為に壊れきる事すらせずに夢を見続けている。」
「ゆめ、」
「きっと罪やかなしみでさえ、そこでは聖く、きれいにかがやいている。
――そんな、うつくしい、ゆめものがたり。」
「…まるで天国じゃないか。」
「良く、考えるといい。人の一生は長い。その間に答えを出せば良い事だ。」
「すぐに終わる事もあるだろう。」
「屁理屈を捏ねるな。あの男が死を望めないのはお前が一番良く判っているだろう。
――よく、考えろ。
一日は、一日だ。誰にとっても。私達にとっても。
永遠を生きるバンパネラでも、10年が1年になる事など在り得ない。瞬きをしても時は過ぎ去りはしない。」
「そして、それが出来るのは夢を見ている間だけ、か。…あいつは俺の偶像を見ているだけなんだな。」
「銀の銃弾を胸に受けても終わりはしない。それでも痛みはある。傷付くのはお前だけかもしれない。」
「……本当は、」
「うん?」

「生き残るとは思ってなかった。」

「――知ってるさ。」

だっておまえは、あんなにも いさぎよかった。








2006.12.04