あまり知られてはいない事だがルルーシュは腕っ節が強い。まぁ強い。とりあえず強い。

彼の最愛の妹のナナリーは目が見えない上に、足も不自由だ。
車椅子からベットや他の場所に移る時は腕の力だけで移動するか、誰かに抱えてもらうしかない。ナナリーは大概の事は自分一人でできるが、ルルーシュはわざわざナナリーに苦労をかける事を嫌がったので、大抵はルルーシュが抱き上げて移動させる。
いくら細くて小さい女の子と言っても人間一人分である。ルルーシュに腕力が着くのは当たり前といえるだろう。

けれどルルーシュはケンカをする時は足技主体だ。手を使ったのは見た事が無い。勿論、ルルーシュは脚が長く、姿勢が良いから重心と軸をしっかりと綺麗に作れるので、そのほっそい体躯から生み出されるのフォームの美しさと威力たるや、大の大人をぶっ飛ばす事が出来るほどだ。誇張ではない。実際に見た事がある。

何故手を使わないのかと訊いたら
「万が一腕が使えなくなったらナナリーを抱き上げられないだろ。それにナナリーは手を触ると安心するから傷を付けたくない。」
という、何とも反応に困る返答が返って来た。返が3つだ。読みにくくて申し訳無い。

それはともかく、ルルーシュは確実にシスコンで、生徒会のメンバーは度々からかいのネタにしている。ネタにはしているが、誰一人として馬鹿にする者は居ない。
何故ならルルーシュ・ランペルージという男、妹の生活の向上の為にはどんな努力も惜しまないのである。

アッシュフォード学園が建てられる当初、ナナリー共々入学が決まっていた彼は、理事長やら出資者の貴族に建設会社やらと隅々まで手を回して、随所に段差無し、スロープ完備、階段には車椅子用エレベーターで、至るところに点字表記と音声ガイド。
「どんな方でも安心して登校頂けます」な完全バリアフリーな学園を建てさせることに成功した。
皆様はお気づきだろうか、彼等兄妹が住んでいるクラブハウスの出入り口にあるのは階段ではなく緩やかなスロープであるという事実に。
勿論、何の代償も無くそんな事を聞き入れて貰える筈も無く、今現在でもルルーシュは時々貴族の呼び出しで学校を休む時もある。
ナニをしているのか、心から友人の貞操を心配していた時期もあったが、単に茶のみ相手や、チェスの指導をやらされているらしい。
「下心のあるヤツは、金だけ出させて一族ごと破滅させてやった。」
あっさりと話していたが、この学園の出資者に名前を連ねていて、今はもう存在しない名前は、つまりは「そういう事」らしい。

ちなみにルルーシュは点字も書ける。打てる、と言った方が正しいのかもしれないが、まぁ、細かい事はいいだろう。
打てる上に読める。おんなじ事のように思えるが、点字は打つときと読む時とでは正反対の形なのだ。両方マスターしようとすると、混乱して訳が判らなくなる。
そんな彼だから、何か面白い本を見つけたり、ナナリーが好みそうな本をニーナあたりから教えてもらうと、読み聞かせる事もあるが、何時でもナナリーが楽しめるように、点字に直してプレゼントしている。
言葉にすると簡単だが、これはとんでもない重労働である。物凄く。この世の文学の存在を憎みたくなるほどに。

想像がつかない皆様にお教えしよう。
1cm×1cmにも満たない小さな小さな長方形の中に6つだか9つだかの点の組み合わせで一文字。
真っ白で厚みのある、ノートぐらいの大きさの紙に打っていく。ひと文字ヒトモジ。まっしろーい紙にただひたすらに。
少しでも途中で気を抜けば、何処まで何の文字を打っていたのか判らなくなるという、泣きたくなるほどのスリリングさ。どっかで打ち間違えたものなら1ページ丸々やり直し。
リヴァルはルルーシュが本を作る度に自分から手伝いを申し出てはいるが、未だ表紙の題名と作者の名前より先に行けた試しが無い。
何というか、こう、プツプツとひたすらに小さい点を打っていく自分を想像すると、泣きたくなるのだ。そしてその度に何を打っていたのかを忘れてしまって、やり直すハメになる。これぞ正しく「泣きっ面に蜂」。
ルルーシュもそんなリヴァルを判っているから、表紙の部分と――調子が良ければ簡単な目次を任せてさっさと本文を打ち始める。物凄いスピードで。ダダダダダダッと、眼では追いつけないスピード。まさしく神速だ。もし点字早打ち世界選手権等というものがあれば、世界新記録を樹立した上、確実に王者になれる。リヴァルは確信している。
ここに至るまでの道のりたるや、想像するだけで頭が下がる。
だから妹の為に、そう迄出来るルルーシュを皆、尊敬している。
…多少、呆れが含まれていないでもないが。


話がズレた。


つまりは何を言いたかったかというと、ルルーシュのシスコンさ――ではなく、兄馬鹿、いや違う、妹想いな所ではなくて、ケンカが強い、という事なのだ。うん。
上級生にリンチされそうになった時も、チェスの代打ちでこてんぱんにされた貴族がキレた時も怪我一つ負う事無く、逆に体の良いストレス発散の道具にしていたヤツだ。
物凄い話が脱線したが、伝えたかったのはその一点だ。

「うん、それは判ったから早くこの手を外してくれないかなリヴァル」
「いや分かってないから!ルルーシュのトコ行く気マンマンだろっ!大人しく待ってりゃ怪我一つしないでスグ帰ってくっから!」
「でも万が一ってこともあるよね?リヴァルとルルーシュが仲良かったってことは充分判ったから、とっとと退いてくれ。」
「嫉妬で矛先俺に向けないでっ!しかもお前今メチャクチャ狂犬バージョンだから!!行ったら絶対ご主人様の敵皆殺しにしちゃうからっ」
「そんな事無いよ。ちょっと二度と歯向かえない様にするだけだから」
「プロがガキンチョのチャンバラに手を出しちゃダメだってばぁぁっ!
 あーもう、ルルーシュ早く帰ってきてぇ―――っ!!」









2006.11.17 彼とボクの点字同好会と彼の狂犬 end