さて、皆様。冷静に考えてみましょう。



ルルーシュが『ルルーシュ・ランペルージ』を殺し、ゼロとしてスザクと対峙した時、ルルーシュは自分が死ぬ事を知っていた。
それで良かった。
ゼロが殺される事で、ブリタニアを決定的に壊す勢力が生み出せて、ナナリーが幸せに暮らしていける世界があるのなら。スザクが生きていてくれる世界があるのなら。ルルーシュは自分の命でさえも使ってみせた。
ルルーシュにとって、他人の命は自分の命よりも優先すべきものではない。スザクのように、見知らぬ誰かの為に命を賭けれるほど、優しくも、残酷でもない。
だが、自分の目的の為に死ねる程度には残酷で、一途だった。

ルルーシュはスザクの事が好きだったが、スザクはルルーシュの事を特別には思っていなかった。少なくとも、ルルーシュはそう考えていた。だからこそ、スザクに撃たせる事が出来たのだ。
幾ら何でも、自分の事を特別に想ってくれている人間に、自分を殺させるほど、ルルーシュは鬼ではない。ルルーシュの中で、「スザクにとっての自分」は、あくまで単なる友人であり、時間と共に癒されるだろう傷疵であった。
勿論、ルルーシュにとってのスザクは違った。ルルーシュのスザクに対する「好き」には、あらゆる情愛が混在していた。友愛、家族愛、恋愛――ルルーシュにとってスザクは友人であり、家族であり、恋愛感情を抱く相手であった。
けれど、その感情はスザクの負担になる事を、ルルーシュは自覚していた。
そして自分には隣に立つ資格さえない事も。

だからこそ、その感情に、きつく蓋をした。

ルルーシュは、だからスザクが同じように自分を想っているなんて、露ほども思っていなかった。同じように、スザクがその想いを心の奥深くに沈ませているなんて――夢にも、思わなかったのだ。





――さぁ、ここからが本題です。
どうぞ皆様冷静に。

ひとつ。ルルーシュは自分が生き返るとは思っていなかった。――yes.

ひとつ。C.C.が生き返ったのは、捜索があった事を考えると、半日以内ぐらいだ。――yes.

ひとつ。スザクはルルーシュを殺しても、壊れはしない。――no?

ひとつ。大切な人を抱えたまま、泣き続けるなんてザラだ。――yes.

ひとつ。ルルーシュはスザクに腕力で勝る。――no.

ひとつ。ルルーシュは運動神経が良くない。――yes.


ひとつ。枢木スザクはルルーシュ・ランペルージを愛していた。

 ――yes.


皆様、もうお分かりだろう。
つまりはまぁ、こういう事である。





スザクは泣いていた。
叫んでいた。嘆いていた。悲しんでいた。怒っていた。泣き叫んで喚いて怒鳴って、気付けなかった自分を嘲って、呪って、もう自分が何をしているのかも判らなくなっていた。
ただただ、自分が殺した細い冷たい身体を力の限り抱きしめて、身の内から競り上がってくる熱くて黒い塊を、押し止める事無く吐き出していた。
すべての感情がぐじゃぐじゃに絡み合って、そこにはひたすらに混沌とした憎しみがあった。
憎かった。
世界が。過去が。未来が。こんな結末を用意した運命が。周りの人間が。自分が。
そして、自分を死なせてくれないルルーシュの言葉が、憎くって仕方が無かった。
憎くて憎くて、でも誰よりも愛していたのに。
もう一度、もう一度だけでも彼が眼を開けてくれるならスザクは何でもする。たとえ死ねと言われても。世界中の人間を殺せと言われても、喜んで従うのに。
今になって自覚した己の存在の「意味」は、彼だったのに。
ルルーシュこそが、スザクの「世界」だったのに。
それなのにルルーシュはもう二度と眼を開ける事が無いのだ。
あの涼やかな声がスザクの名を呼ぶ事はもう、二度と無い。
スザクの言葉に怒った風に照れて唇を尖らす事も、その後で嬉しそうに瞳をやわらかく細める事も、もう二度と、喪い。
もう、ない。
スザクが撃ったからだ。ゼロを。ルルーシュを。
スザクが、殺したから。
ルルーシュが、死んだから。
だからルルーシュはもう、二度と、

眼を――。


「へっ?」



 開  け  た  。



「………あれ?」 「………うへぇっ?!!」



そんな訳だ。







『だから言ったんだっ!!私は!』
「おい、頭の中で怒鳴るのは止めてくれ、C.C。二日酔いみたいになる」
『五月蝿い!少しは反省しろこの馬鹿者ぉっ!』
「携帯電話を渡しただろう。話がしたいならそれで掛けてくれ…。端から見たら一人で喋ってる危ない電波野郎だ。」
『アレは壊れた!』
「またかっ、この機会オンチめ!」
「ルルーシュ、また脳内会話ー?」
『何だとこの運動オンチ!』
「うるさい!」
「え、ごめん」
「あ、違う、スザクの方じゃなくて…」
『人と話している時に割り込むとは何て礼儀知らずな!』
「お前が言うなっ!!」
ルルーシュの為に煎れたお茶を片手に、もう片方の自分用の緑茶を啜りながら、スザクは虚空に向かって叫ぶルルーシュを幸せそーうに見詰めた。


あれから。

世界と隔絶された空間で、スザクはルルーシュと今までのお互いの擦れ違いや思想の違いをじっくり話し合ったり埋め合ったり告白したりイチャイチャしたりにゃんにゃんしたりあーんな事やこーんな事やそーんな事まで致してしまっていたりする。

ルルーシュをひっさらったタイミングも最高で、黒の騎士団やなんか見覚えのある緑の髪をした少女が止める間も無かった。
神風に乗ったランスロット付きスザクには紅蓮でさえも追い付けない。
もし後少しでも遅れていればルルーシュはゼロとして、黒の騎士団もといゼロふぁんクラブの手によって祭り上げられ仮面神教とかいう新興宗教の生き神様として崇め奉られていた事だろう。カレンの目は本気だった。本気と書いてマジと読むぐらいにホントに本気だった。例えが古いがヤツは本気だった。「ゼロは私が護る――っ!!」ではなく「ゼロは私が祀るーーっ!!!」とか叫んでいた気がする。決して幻聴ではない。ルルーシュもしっかりはっきり聞いていた。

尤も、拉致されるにあたってルルーシュは力の限り抵抗した(イヤ別に宗教に関わり合いになりたかった訳じゃなくて防衛本能に基づいた行動だった)が、ひ弱で貧弱で脆弱で最弱なルルーシュが肉体派で屈強で剛強でおまけに最強というかむしろ最凶なスザクに勝てる訳も無く。

実はギアスを使ってまで逃れようとしたのだが、奮闘空しく手篭めにされて終わった。
ちなみにギアスを発動させて命令したのは「離せ!」であったのだが、スザクはそれに従いルルーシュを離したゼロコンマ00001秒後ぐらいにはルルーシュを再びがっしりと抱きしめていた。
命令には背いていない。絶対遵守の力はスザクにも絶好調だ。ただその後のスザク反応速度が人知を超えていただけで。
えーなにそれそんなの有りー?とは混乱したルルーシュでも思わないでもなかったが、もはやとっくに後の祭である。祭りの後の空気って寂しいよネとか言ってる場合ではない。
ギアスは世界を救ったがルルーシュを救ってはくれなかった。

愛はギアスにも打ち勝つ。

世界にとって大変残念な事にルルーシュ自身、貞操の危機への抵抗はあったが相手はずっと憎からず想っていた人間だ。ちょっとぶっ壊れて「キャラ変わってねー?」と学園での再会以来の疑問を脳裏に甦らせるでもなかったが一応建前というか固有名詞の設定上はあの枢木スザクである。ルルーシュが好きだったスザクの成れの果てである。
これでルルーシュにほだされるなと言う方が酷だろう。
ほんとかよと思わないでもないがルルーシュには酷だった。酷なんだ。酷って言ったら嘘偽りなく酷だったのだ。
そしてほだされて今に至る。


歳をとらず殺しても死なないルルーシュがスザクと一緒に暮らすのは無理が有り過ぎるだろうと突っ込みたいところだが、そんなルルーシュの心配はスザクの爽やかな風さえ感じられる笑顔で「ロイドさんが不老不死の研究してくれてるんだ」という言葉の下、一刀両断即座にみじん切りにされた。
ロイドって誰ですか何かマッドな臭いっつーかシュナイゼル臭のする名前だなオイでもアイツ確かナイトメア開発してなかったっけ人体関係無いじゃん。とすると窓一杯に広がっていて何時でも見る事の出来るランスロットの製作者はあの男かスザクお前生涯をかけた研究成果の愛機を人質に取ったな。それじゃああの男は泣きながらとっとと薬を完成させるだろうなお前はそれで良いのかランスロット生みの親はお前の帰りを待っているぞ、とここまで一気に瞬きの間に考え、窓の外のすんげぇ至近距離に鎮座しているランスロットの眼がキラリと光った所でルルーシュは全ての思考を放棄した。

(もうどうにでもなれ。)

考えるだけ無駄な気がしたのであった。



そんな幸せ一杯かもしれないルルーシュにとって目下の悩みは、一方的に受信させられる唯一自分と同じ「生き物」のC.C.からの脳内通信だが、そんなのスザクの知ったこっちゃ無い。
スザク的にはルルーシュを毎日愛でていちゃこらしつつ自分の身長がルルーシュを超えたぐらいに薬の完成を待つばかりだ。
「ほら、ルルーシュお茶」
「あぁ、ありがとうスザク」
「どういたしまして。でも、声が枯れるほどムリさせちゃったのは僕だし。」
「馬鹿、おまっ、そういう事を言うなよ!!」
ルルーシュが顔を赤くした今の会話も、C.C.には聞こえていたりする。
今まで聞いた事も無いC.C.の金切り声をルルーシュは体感する事と相成った。

『絶っっ対取り戻してみせるからなぁっ!!!
覚悟しておけぇ!私との契約はまだ果たされてないんだからなぁっ!!!』
優しいほのぼのーとして甘ーい空間の中、場違いな程C.C.の怒りに満ちた声が響き渡った。

ルルーシュの頭の中だけで。








2007.01.28 すべてをぶっこわせ!汝の中に神は居る! end