ソレは息を潜めて生きていた。
静かに、密やかに。ヒトの歴史の奥深くで、決して表に出る事無く。
深海に棲む魚達よりも音ひとつ立てる事無く、
捕食されるだけの小動物達よりも慎重に。
注意深く。

今、ソレの前を2人の子供が駆けて行った。
2人はソレに気付かない。
蝉の7日間だけの生と死が充満し、
向日葵がまるで献花のように咲き乱れる其処に、ソレと彼等は居た。
髪の茶色い子供と黒髪の子供。
黒い方が華奢な印象を受ける。
ソレは眼を見張った。
瞳孔は動く事無く、気付けるものは誰も居はしなかったが、
確かにソレは驚愕した。

――ミツケタ――

髪の黒い子供が何かに気付いたように振り向く。
だが其処にはもう、「何も」無かった。

皇暦2010年8月10日。
神聖ブリタニア帝国が日本に宣戦を布告したその日である。








2006.11.19 first cause end