「しあわせがほしかったんだ」
子供のように地面に仰向けになって、空だけを瞳に写してルルーシュが言った。
「しあわせになりたかった。ナナリーにしあわせな世界をあげたかった。」
「ルルーシュ、」
「傷付く事の無い、奪われる事の無い世界が欲しかっ、た…ん、だ」
真っ赤に色付いた唇が、一音ずつ、一言ずつ空気を震わせるたびに微かに動くのをスザクはじっと見ていた。
あまりにもその様が綺麗で、口付けたくなって。けれど大気と一緒にスザクの心の琴線までをも震わせるルルーシュの声がもっと聞きたくて、止めたくなくて、スザクはじっとルルーシュを見下ろしたまま動けなかった。
「お前が、ナナリーの側で、笑、って…いてくれれば、それ、で……俺は良かったんだ」
「ルルーシュ」
「明日を恐がらなくていい、世界が欲し、かった…」
きらきらと、いくつもの光を抱え込んだ宝石のような紫の右目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
宝石が、小さな水晶を生んで、その結晶が耳朶へ消えていくのをスザクだけが見る事が出来た。
きれいなルルーシュ。
子供みたいなルルーシュ。
言葉も声も眼も何もかもきれいなものだけで構成されていたルルーシュ。
スザクのルルーシュ。
瞬きをしなくても、いくつもいくつも涙が溢れ出て、幼子のように、それなのに嗚咽も出さずにルルーシュは泣きじゃくった。
空を見上げて。
「スザクと、ナナリーと笑っていられる場所が…ほし、」
言葉が切れた時だけ、ルルーシュの顔がくしゃくしゃに歪んでしまったけれど、それでさえ綺麗だった。
スザクはだから、ルルーシュをずっと見ていたくて、でも。
「しあわせになりたかった」
言葉と一緒に息を吐いて、目を閉じた。
片方だけ残っていた瞳も、もう開かなかった。
2007.02.28 バイバイ眠り姫 end