「わたしの手を拒むお前すらを私は愛している。

わたしではない女を愛するお前すらを私は愛している。

届く当てなき私の愛を、気付く事無く進んでいけ。

私はわたしを殺すお前すらを愛するだろう。」





「…随分と熱愛的で古めかしいブリタニア語だね」
「――『届く当てなき恋文』。セッツァード・C・T。」
「あからさまな棒読みが何とも…」
「うるさいな、読めと言ったのはお前だぞ。スザク」
何だってこんな古典詩を一日に2度も読まなきゃいけないんだ。この程度だったら授業に出てなくったって判るだろう。
「だってさ、リヴァルが電話で言ってたから。『ルルーシュに恋愛系の詩読ませちゃ駄目だー。女子が惚けちゃって授業にならないっ!』って。」
何て余計な事を言ってるんだリヴァル。しかし何だそれは。リヴァルの真似か?似てないにも程があるぞスザク。
「…いま、似てないって馬鹿にした?」
「へぇ、よく判ったな。
ちなみに今はとっとと服を着ろと思ってる。風邪引くぞ。」
なんで上半身裸のままなんだお前は。ちゃんと換えの服は出しただろう。
「大丈夫だよ」
何が大丈夫なんだ。何が。
それとも何か。俺のじゃ小さいとでも言うつもりか。オーダーメイドじゃないんだぞ。SとMとLで別れる程度の既製品でちょっとの体格差なんて関係無いだろう。筋肉の無い俺への嫌味か?当て付けか?身長は昔から俺の方が勝ってるんだぞこの体力バカ。

「服が乾いたら、すぐに戻らなきゃいけないし、悪いよ。」
「…気の遣い所を間違えてないか? ずぶ濡れになりながら、わざわざ会いに来る行動の方に、まず気を遣え。」
「ごめん、迷惑だったかな」
誰もそんな事言ってないだろう、この馬鹿。
「…でも、久し振りに顔が見たかったから。」

ワザとなんだろうか。俺がこんなにぐちゃぐちゃになってる時に限って、お前はそんな事を言う。

「最近、忙しいんだな」
「うん。まぁ、イロイロと」
『一般人』の俺には言えないと、スザクは口篭もる。

そんなに申し訳なさそうな顔をしなくても、知ってるんだ。
黒の騎士団やゼロの問題だけでなく、軍は今、難問を抱え込んでいる。軍を二分するほどに、反ブリタニア勢力が成長したからだ。――正確には、「反ブリタニア」ではないのかもしれない。「今のブリタニアの体制に疑問を持つ者達」だ。そして、それを変えていこうとする者達。…スザクのように。

「ルルーシュは? 最近学校の方はどう?」
「お前、リヴァルから何も聞いてないのか?」
「ルルーシュのサボリが増えた事は聞いてるよ。」
リヴァルめ。余計な事を。
スザクは駄目だよちゃんと行かなくちゃなんて笑ってる。ここの所まるで学校に来ない奴が何をぬかす。
「…シャーリーは、かなり元気になった。会長も相変わらず好き勝手してる。他の皆も元気。
カレンは入院したから、今は休学してるけど、この間見舞いに行ったら全然大丈夫そうだった。」
何たって日夜、紅蓮で暴れ回っているほどだ。この前、お前とランスロットが撃墜されそうになったくらいには元気だ。
「そっか、良かった。」
このお人よしめ。

そうやって、人の事ばかり気にかけて、あんな場所に身を置いて。
お前は判ってないんだ。
お前は知らないだろう。お前は気付かないだろう。
俺がどれだけあの国を、あの男に連なる人間を憎んでいるのかなんて。本当は一人残らず殺してしまいたいんだ。
あの桃色の髪をした義妹も。コーネリアに護られ何不自由なく幸せに育った、お前の主でさえ。もう、何年も前から、ずっと憎み続けているんだ。
お前が、命を賭けて護る相手。
お前の、想い合う女。
お前達はきっと穏やかに、優しいあたたかな家庭を造るんだろう。そして彼女はお前の腕の中に抱かれて笑うんだろう。幸せに。
――吐き気がする。俺以外を選ぶお前に。お前に選ばれたあの義妹に。…何よりも嫉妬する俺自身に。

どうして、お前が選んだのが俺じゃないんだろう、なんて、馬鹿げてる。
お前が選んだ人間なら殺さないなんて、もっと馬鹿げてる。
何なんだろうか、この感情は。だって平気だったんだ。スザク。お前がいない7年間、俺は笑う事も悲しむ事も喜ぶ事も怒る事も出来たんだ。お前の事なんか思い出しもしないで、別にお前がいなくたってナナリーさえいれば、俺は生きていけたんだ。何の問題も無しに。
なのに何でだろう。何で目の前にお前がいると、こんなにもお前が必要になるんだろう。
手を、伸ばしたいなんて想ってしまうんだろう。

実際に、目の前の身体を求めて、手を伸ばしそうになった俺の感情が、でもその背中にある赤黒い傷跡を目にして、止まった。
がっしりした背中に、一際目立つ、銃創。
完治した今でも、明らかに色の違う、それ。
あの日、その傷が出来た場所に、俺も居た。だからこそ、スザクは傷を負った。

俺の所為で。――…おれの、ために。

幾ら防護服を着ていたって、あんな至近距離――というか接射――の銃の熱を防げる筈が、無い。
銃創だけじゃなく、その周りの火傷の跡も、きっと一生消えない。
ずっと。俺を庇ってくれた、その、痕が。証が。
お前が俺を忘れ去っても、ずっと。
なぁ、スザク。お前の想いも、進んで行く道も、魂の一カケラでさえ、俺のものにはならないんだから、せめて、その背中の一部ぐらいは俺が貰っても良いだろう?
お前がユーフェミアを抱いて、あの義妹の傷一つ無いしろい腕がお前の背中にまわっても、そこだけは、俺のものなんだ。
俺だけの、ものなんだ。
誰にも言ったりしない。勝手に俺が心の中で、そう思っていても、良いだろう?

だって、その醜い痕でさえ、こんなにもいとおしいんだ。

衝動に身を任せて、スザクの背中の、その傷口に掠めるようなキスをした。
「るるるるるっ?!」
何だスザク、それ俺の名前か?動揺し過ぎだお前。顔も赤過ぎ。
スザクはまるきり酸欠の金魚みたいに真っ赤な顔で口をパクパク開け閉めしてる。
ごめん。凄い笑える。
堪える事無く爆笑し始めた俺に、スザクは今度は怒りに顔を赤くして怒鳴ってくる。
「ルルーシュっ!!!」
なんだ、ちゃんと呼べるじゃないか。
良かった。出来たら、『本当』の俺の最期にも、俺の名前を呼んで、くれないか。どちらでも、良いから。
そうしたら、俺は何も要らないから。
ナナリーがいつまでも笑っていられるような世界があって、ブリタニアが無くなって、お前が幸せに生きていけるなら、満足だから。
お前が選んだのがあの義妹でも。
お前には幸せになって欲しいけど、お前を幸せにするのは別に俺じゃなくても良いんだ。
「ちょ、泣くほど笑わないでよルルーシュ!」
「ご、ごめ、スザク」
ごめん。
ごめんな、スザク。
お前さえも、お前の心さえも利用する俺を憎んで良いよ。呪って良いよ。
わすれて、いいよ。
俺はいつまでもお前の事が好きだから。
何の免罪符にもならないけど、俺はお前を赦すから。
だけど、だから、さよならだ、スザク。
明日で、俺は居なくなるけど、また戦場で。


また、あした。





『進め。ただひたすらに。

私の血を啜り、肉を食らい、私の屍の上を颯爽と歩いてゆけ。

この想いより他は、すべてお前に差し出したのだから。』


「届く当てなき恋文」 セッツァード.C.T.








2006.12.13 あの瞬間、お前の命は確かに俺のものだったんだ。end